オーキシンは茎の先端で生成されて、
移動は極性移動をするという話をここまで延々としてきました。
⇒オーキシンの極性移動という性質についてわかりやすく解説
⇒オーキシンとは?わかりやすく解説
⇒ウェントのアベナテスト(オーキシン発見につながった実験)とは?
⇒ボイセン=イェンセンの実験についてわかりやすく解説
⇒ダーウィンがやった光屈性の実験についてわかりやすく解説
今回の記事ではオーキシンの働きについて解説します。
オーキシンの働き
オーキシンの働きはいっぱいあります。
まず1つ目の働きとして『伸長、成長の促進』があります。
オーキシンは細胞壁の性質を変えてしまうという働きがあるんですね。
その結果、細胞の中への吸水を促します。
細胞の中に水分が入るということは細胞の体積を増えますね。
これを植物全体で見たら植物は大きくなる、成長するってことです。
2つ目の働きとして『頂芽優勢(ちょうがゆうせい)』があります。
頂芽(ちょうが)というのは先端の芽という意味です。
先端の芽が優勢だという意味になります。
なので、頂芽優勢とは茎の先端の頂芽がどんどん成長しているときは
下側に存在する葉っぱの付け根の芽である側芽の成長は抑えられます。
こういった現象を頂芽優勢といいます。
ですが、頂芽をチョキンと切り取ってしまうと、
側芽は突然、成長し始めます。そして枝となります。
で、できた枝の先端に新たな頂芽ができます。
また、頂芽を切り取った後の切り口にオーキシンを投与すると、
下側にある側芽の成長はストップします。
どうしてそんな現象が起こるのでしょう?
これは茎の先端部ではオーキシンが作られるため、
オーキシンの濃度が高く、頂芽のオーキシンに対する最適濃度が
高いため頂芽がよく成長するわけですね。
でも、側芽のオーキシンに対する最適濃度は高くないため
先端からやってきたオーキシンの濃度によって側芽の成長が抑制されるためです。
ここで「最適濃度?」と疑問に感じた方もいるでしょう。
オーキシンの最適濃度とは?
オーキシンというのはアベナテストなどの屈曲実験からもわかるように
伸長成長を促すホルモンです。
⇒ウェントのアベナテスト(オーキシン発見につながった実験)とは?
ではオーキシンの濃度は濃ければ濃い方がよいのでしょうか?
生物って濃ければいいってもんじゃありません。
適量って何でもあります。
たとえば、消毒用のアルコールの濃度。
消毒用のアルコール濃度は高ければ高いほど細菌やウイルスをやっつける効果が高くなるわけではありません。
だいたい70%くらいの濃度が一番消毒効果が高いです。
理由は上記動画をご覧ください。
逆に消毒用アルコール濃度が30%くらい低いと消毒効果はありませんし、
90%と高くても消毒効果はありません。
他にもお酒もそうでしょう。
ビール2杯とかビール5杯とか、個人によって違うわけですが、
すごくテンションが上がってリラックスできる量ってあります。
そのリラックスできる量をちょっと超えてくると、
体が重くなってきたり、トイレの回数が増えてきます。
この量を超えてくると、目の前の世界が周ってみえるようになります。
こうなってくると急性アルコール中毒は近いです。
つまり、お酒は適量を飲んでいるうちはOKです。
でも適量を超えると命の危険が生じます。
逆にお酒を飲む量が足りないのもダメです。
もっと飲みたくなるわけです。
こんな感じでちょうどよい量って個人によって違います。
オーキシンはお酒ではありません。
でも、植物にとっての最適濃度があるんです。
まずこちらのグラフをご覧ください。
グラフが3つあるように見えますね。
実はグラフは4つあるんです。
・ピンク色のグラフ(根)
・黄緑色のグラフ(芽)
・水色のグラフ(茎)
・白色のグラフ(成長と抑制の間にある横にまっすぐな線)
のことです。
この横線である白色のグラフというのは何かというと
芽生えでも植物の組織でもなんでもいいですが、
水につけた時のものです。
たとえば、植物の茎を2㎝切り出して水につけました。
すると一晩で6㎜伸びたとしましょう。
するとオーキシンが$10^{-5} $、
つまり10万分の1mol/Lの濃度のオーキシン水溶液に2㎝の茎をつけたということです。
すると、一晩で18㎜伸びたとしましょう。
とすると、水につけたときよりも18-6=12㎜成長が促進されたということです。
今度は逆にオーキシンの濃度が$10^{-1} $(さっきより濃度は濃い)になると
水につけたときに比べたら、抑制されています。
つまり、水につけたら6㎜一晩で伸びるのに、$10^{-1} $mol/Lのオーキシンにつけたら
2㎜しか伸びなかったみたいな話です。
ということは6㎜-2㎜=4㎜成長が抑制されたって話です。
とにかく成長という文字の横にひかれている横線は
『水につけたときの値』です。
それに比べてオーキシンの濃度が$10^{-5} $のときが一番成長を促進させますね。
特に茎は。
これに対して根でみるとオーキシンの濃度が$10^{-10} $あたりが一番成長が促進されていますね。
側芽というのは先端にない、途中にある芽ですが、
オーキシンの濃度が$10^{-9} $か$10^{-8} $あたりで一番成長が促進されています。
オーキシンの濃度が$10^{-5} $の時というのは茎に対して
成長が促進されますが、側芽に対しては水より調子悪いですね。
つまり、オーキシンの濃度が濃ければいいってものじゃないということです。
植物の組織の場所によってオーキシンに対しての最適濃度が違うわけです。
これがオーキシンの働きを結構決めています。
オーキシンの働き|頂芽優勢とは?
オーキシンは茎の先端(頂芽)でオーキシンができます。
先端のオーキシンの最適濃度は茎だから$10^{-5} $でしたね。
で、頂芽より下側にある芽を側芽(そくが)といいますが
これは先ほどのグラフの芽のところが該当しますので
オーキシンの最適濃度は$10^{-8} $mol/Lくらいになります。
つまり、側芽の方が薄いオーキシンでよくて
頂芽の方が濃いオーキシンが必要になります。
で、頂芽があるときはここでオーキシンがいっぱいできて
そのオーキシンが$10^{-5} $くらいになります。
だから、先端はどんどん伸びます。
で、$10^{-5} $の濃度が下に降っていきます。
すると下側のオーキシン濃度は少し薄くなりますが、
まだ$10^{-6} $くらいあります。
つまり、$10^{-8} $と比べたら濃いです。
だから側芽のあたりは成長できず、先端だけがどんどん成長します。
そこで頂芽のあたり(先端)をチョキンと切ったとしましょう。
すると、頂芽でオーキシンが作られなくなりますね。
以前まで側芽だった部分に存在するオーキシン濃度はどんどん下がっていきます。
上からオーキシンが降ってこなくなるからです。
結果、側芽のあたりのオーキシン濃度が最適になるわけです。
そして側芽が伸びていき、その伸びた側芽の先端がまた頂芽になり、
新たにオーキシンを作り始めて、下にオーキシンを降ろしていきます。
新たにできた頂芽はオーキシン濃度が濃い($10^{-5} $)のが好きだから
どんどん伸びますが、もっと下の部分(側芽)は薄い濃度のオーキシン濃度が好きだから
成長はストップしています。
ここで疑問を感じる人がいました。
「本当にオーキシンが原因で成長したり、ストップしたりするの?」って。
そこで、頂芽を切断した部分にオーキシンを含んだ寒天を乗せてみました。
以前解説したウェントの実験みたいな感じですね。
⇒ウェントのアベナテスト(オーキシン発見につながった実験)とは?
すると頂芽を切っただけだったら、
側芽が伸びたのに、頂芽を切ってそこにオーキシンを含んだ寒天を乗せたら
側芽は伸びませんでした。
つまり、側芽は側芽は最適濃度以上のオーキシンを頂芽から送り込まれる結果、
オーキシン濃度が濃すぎて伸びないということです。
ではどうして頂芽はそんな意地悪なことをするのでしょう?
植物は陸上にいますが、光は大事です。
植物の根っこのあたりでは水や栄養を吸収しようとしていますね。
で、上部は植物の葉っぱで覆っているので、土表面辺りは真っ暗になります。
植物の下部には光が当たらないということです。
でも植物は光をもらって光合成することも大事です。
どうやって生きていけばよいのでしょう。
光合成ができないと植物は枯れてしまいます。
陸上にいる植物は光の奪い合いをしているんです。
とにかく他の植物よりも上に行って光を奪いたいのです。
だから植物は光合成や窒素同化でできたエネルギーを先端に送るわけです。
窒素同化についてはこちらで解説しています。
⇒植物の代謝についてわかりやすく解説
もしひょろひょろになってもいいからどんどん先端を成長させ上に伸ばすわけです。
そうすれば他の植物は光が当たらなくなって枯れるかもしれませんが、
自分は光をもらえて光合成でき、後で葉っぱを成長することができるわけです。
こんな感じで体中の全エネルギーを頂芽に送り込むわけです。
そのためには側芽が伸びないようにしないといけませんね。
これをやっているのがオーキシンです。
だからオーキシンが側芽に対して濃すぎる濃度にさせて
伸びさせないようにコントロールしているわけです。
これが頂芽優勢です。
オーキシンの働き|頂芽優勢その他の説
ここまで頂芽優勢について説明しましたが、
大学レベルになると、いろんな説を学ぶことになります。
たとえば側芽が伸びないのはオーキシンのほかに
根っこでできるサイトカイニンの働きも関係しているのでは?
という説もあります。
他にもアブシシン酸という抑制系の植物ホルモンも関係しているのではないか?
という説を唱える先生もいます。
⇒植物ホルモンとは?わかりやすく解説
こうやって説がいろいろあるのは
植物の実験材料が違うからです。
ある先生はシソ科の植物で実験して、
ある先生はエンドウでやってみたいな感じなので
データをまとめられないのです。
最近になってシロイヌナズナという植物で統一されるようになって
いろんなことがわかってきました。
ただ確実に言えるのは
頂芽優勢はオーキシン濃度が濃すぎることで側芽が抑制されているということです。
ちなみに秋になると葉っぱが紅葉し落葉する姿を見ることができますね。
これは離層が関係しているのですが、同時にオーキシンも関係しているんです。
詳しくはこちらで解説しています。
⇒離層形成とは?落葉のメカニズムをわかりやすく解説