前回の記事では酵素ってどんなものなのか、
例を挙げて説明しました。
⇒酵素ってどんなもの?例を挙げてわかりやすく解説
今回の記事では酵素の働きの中でも
触媒作用についてわかりやすく解説していきたいと思います。
酵素の働き:触媒作用
酵素の働きはイコール触媒作用です。
触媒については以前の記事でかなり詳しく解説しています。
⇒触媒とは?わかりやすく解説
触媒とは活性化エネルギーが低い条件下で反応を起こさせる物質のことです。
化学だともっと詳細な触媒の定義を覚えないといけません。
でも、植物や動物という生物を理解するための触媒の定義なら
上記の定義で十分でしょう。
では活性化エネルギーって何でしょう?
具体的な例を示したいと思います。
$H_2O_2 $⇒$H_2O $+$\frac{1}{2} $$O_2 $
上記化学式は過酸化水素($H_2O_2 $)が水($H_2O $)と酸素($O_2 $)に分解されたという意味になりますね。
この化学反応ですが、自然状態では少しずつしか反応していきません。
つまり、自然な状態では何年もかけて、徐々に過酸化水素が水と酸素に分解されていくということです。
ですが、温度を上げると反応スピードが上がります。
温度というのは理科の世界ではエネルギーのことだと思ってください。
温度が高いというのはエネルギーがいっぱいあり、
温度が低いというのはエネルギーが少ないという意味です。
なので、温度を上げるとエネルギーが増えるため、
$H_2O_2 $⇒$H_2O $+$\frac{1}{2} $$O_2 $
という反応スピードが上がります。
上記反応は触媒がない条件下での話でした。
では触媒があったらどうなるのでしょう?
触媒としてよく知られているものに$MnO_2 $(二酸化マンガン)があります。
二酸化マンガンは黒い石の粉末です。
小学校や中学校の理科の実験で二酸化マンガンを使ったことがあるかもしれません。
私たちの体の中にも過酸化水素を分解する酵素(イコール触媒)があります。
これがカタラーゼです。
二酸化マンガンという触媒やカタラーゼという酵素(触媒)があると
どうなるのでしょうか?
たとえば36℃という温度で試してみるとどうなるでしょう?
二酸化マンガンやカタラーゼがない条件下での36℃だと
$H_2O_2 $⇒$H_2O $+$\frac{1}{2} $$O_2 $
という反応はなかなか起こりません。
めっちゃくちゃゆっくりです。
でも、二酸化マンガンやカタラーゼがある条件下での36℃だと
$H_2O_2 $⇒$H_2O $+$\frac{1}{2} $$O_2 $
という反応は急速に起こります。
これをグラフ化して示してみますね。
上記図の左側をご覧ください。
触媒なしの場合になります。
100℃という温度を加えることによって、
$H_2O_2 $が$H_2O $と$O_2 $に『急速に』分解されたという意味になります。
この100℃という温度がないとめちゃくちゃゆっくり反応していくところを
100℃という温度を加えることによって急速に分解が起こったので、
この100℃のことを活性化エネルギーといいます。
このようにプラスアルファのエネルギーを足さないと
反応が起こらないわけです。
これに対して上記図の右側をご覧ください。
触媒がある場合です。
36℃というエネルギーが少ない状態でも反応が起こります。
つまり、活性化エネルギーがたったの36℃で反応が起こるということです。
触媒がない場合には、36℃では無理です。
でも、触媒があるとわずかなエネルギーで反応が起こります。
これが触媒というやつです。
ではどうして触媒があるとわずかなエネルギーで反応が起こるのでしょう?
わかりやすい例を挙げて説明しますね。
あなたの手で梨を割ることができますか?
もし梨を手で割れる人は握力が70㎏くらい必要でしょう。
これを活性化エネルギーだとすると、活性化エネルギーが70以上なら
梨を割れるということになります。
ところが、もし握力が20㎏の人が梨を割るならどうしたらよいでしょう?
ナイフがあれば握力が20㎏の人でも梨を割れるでしょう。
これはナイフを握るだけの握力があればできることです。
だからナイフに当てはまるのが触媒だと理解しましょう。
100℃でないと反応が起こらないというのは握力が70㎏というのと同じで
もし触媒があれば握力がわずかでも活性化エネルギーが少なくても割れるということです。
たとえば、こんな化学式があったとしましょう。
X+Y⇒Z
XとYが反応してZという物質ができたという意味です。
これは先ほどの過酸化水素が水と酸素に分解されたのと違って、
XとYが合成されてZができたという意味になります。
つまり、合成反応を例にしてみたいと思います。
この例からどうして触媒があると少ないエネルギーで反応が起こるのか
理解できると思います。
まず、
1つ目の実験として
実験1
X+Y⇒Z
(触媒なしで36℃)
というパターンから。
物質はエネルギーがあると振動します。
振動が0という状態が絶対0℃といってマイナス273℃の状態を意味します。
エネルギーがあればある分だけ動きます。
実験1では36℃です。
ほとんど動かないので、振動はしますがXとYが出会えません。
出会わないということは反応しないということです。
恋愛でもそうですけど、XさんとYさんが別々の家で引きこもっていたら
お互いで会うことがないので、恋愛に発展する可能性は0ですね。
そういう状態です。
XさんとYさんが家にいて行動しないというのと
36℃という化学反応においては低温状態は同じような状態だという意味です。
次に実験2。
実験2
X+Y⇒Z
(触媒なしで100℃)
触媒がなくても100℃の状態なので活性化エネルギーが十分にある状態です。
この場合、XとYの振動が激しくなり、
お互い出会います。
結果、XとYが反応してZという化合物ができます。
合成反応が起こったということです。
次は実験3。
実験3は酵素(触媒と同じ)があって36℃という条件です。
この場合、第1反応としてXを酵素がまず捕まえます。
酵素がXをキャッチするには多少のエネルギーが必要です。
36℃のエネルギー程度で酵素はXを捕まえることができます。
次に第2反応としてXをキャッチしている酵素がYもキャッチします。
酵素(触媒)を仲介してXとYが出会います。
要するに反応するということです。
触媒(酵素)が半ば強引にXとYを出会わせているということです。
そしてXとYが反応し化合物Zができます。
さらに酵素は離れていきます。
なので、酵素は反応のあとでも最初と同じ状態となります。
だから、酵素(触媒)は何度でも利用することができるわけですね。
また、XとYが反応するわけですから直接酵素が関係していないということになります。
このような特徴も酵素(触媒)にはあります。
上記反応を一般化(公式化)すると、、、
触媒(En)+基質(S)⇔EnS⇔触媒(En)+生成物(P)
となります。
触媒(酵素)の相手を基質(S)といいます。
今回の例ではXとYのことです。
で、酵素と基質がいったん結合しEnSとなります。
このEnSを酵素基質複合体といいます。
酵素基質複合体を作って作用します。
その結果、酵素Enと生成物P(今回の例ではZ)ができます。
たとえば、デンプンだったらアミラーゼによって麦芽糖になりますが、
これも上記公式が成り立ちます。
なので、必ず触媒(酵素)は基質を捕まえて作用した上で
生成物になります。
多くは可逆反応(戻ることができる反応)なので、
上記のような公式が成立します。
また、触れて相手に作用するから触媒だという名前になっています。
触媒(酵素)をたとえていうなら、
愛のキューピッドみたいなものです。
XさんとYさんを愛のキューピッドが引き合わせ、カップルが成立し
子供(Z)ができるという感じですかね。
また愛のキューピッドはその後も、
他のカップルを引き合わせるわけですね。
ここで大事なことがあります。
触媒が作用するためにはEn(触媒)とS(基質)との接触が条件となります。
つまり、EnSという酵素基質複合体のことです。
なので、接触できるかできないか?
酵素と基質との関係も知っておく必要があります。
これは基質特異性の話になります。
ここまでかなりの長文になったので次回の記事で解説したいと思います。
⇒基質特異性とは?酵素と触媒の違いも含めてわかりやすく解説